我々は、神経細胞がもつパターン化された電気的活動(自発発火を含む)が、環境(Epigenetic factor)に依存した神経回路形成と発達において重要であるといった仮説のもと実験をおこなっている。同じ遺伝学的背景を持つ神経細胞でも、細胞を取り巻く環境により異なる特徴、歴史を持つ。それらの情報は神経活動のパターンとして貯えられているのではないかと考えている。現在、分子生物学的立場から神経活動のパターンと分子の動きとの関係を明らかにすることにより、神経回路の運命を電気的な信号パターンを用いたプログラムに置き換える試みをしている。本研究の意義は脳の情報処理システムの基本原理に迫ると同時に、治療用のデバイスの開発といった視点から世界の注目を集めている。 本研究では、シナプス形成と維持に重要と考えられる多機能分子ニューレグリンに着目している。ニューレグリンはシナプス形成において多段階に機能しているが、ニューレグリンの役割の変遷と神経活動との関係を追っていくことにより、神経活動のパターンと分子の動き、神経細胞、回路の変化との関係を明らかにしようと考えている。ニューレグリン蛋白は、小脳顆粒細胞-苔状線維間のシナプス形成において、刺激依存的な蛋白の発現、局在、凝集、蛋白分断が観察され、一分子の多段階な機能によりシナプスは単なる接触から意味ある結合へと変化し、シナプスの発達に伴いNMDA受容体とGABAA受容体間の協調に重要な役割を果たしている可能性が示唆されている。 本年度は、1)ニューレグリンの役割の変遷と神経活動との関係を追っていくことにより、神経活動のパターンと分子の動き、神経細胞、回路の変化との関係を明らかにした。2)橋核神経細胞と小脳顆粒細胞の初代培養細胞に様々なパターンの電気刺激を加え、ニューレグリンの発現、分布、蛋白分断がどのような刺激パターンで変化するかを調べた。3)NMDA受容体とGABAA受容体の各サブユニットの発現の変化を定量化RT-PCR法を用いることにより観察した。4)NMDA受容体とGABAA受容体のアンタゴニスト、Na+チャンネルブロッカー、TTX等を用いた薬理学的実験を行うことにより、各チャンネルと神経活動のパターンとの関係を明らかにした。
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