研究概要 |
Fc受容体は、自己、外来抗原を結合した免疫グロブリンを捕捉し貧食排除に働くと共に起炎性物質の産生を促し病像形成に関与する。Fc受容体の最初期反応は抗体結合α鎖細胞外部分の重合が情報伝達βγ鎖細胞内ITAM配列チロシンのリン酸化に転換されることである。この事象は最大のシグナル転換部位と考えられるがその機構は十分に解明されていない。この反応は免疫複合体腎炎や喘息発作をその炎症シグナルの始まりから制御する標的部位として臨床的に重要でありその解明が待たれる。本研究ではこの最初期メカニズムの解析を目的としている。本年度はFcγRsのシグナル伝達機構を解析し、以下の所見を得た。 1.従来FcγR架橋の初期シグナルとしてSrc型チロシンキナーゼ(PIK), Lynの活性化があげられていた。本研究からFcγRα鎖の脂質ラフトへの融合、そして空間的な脂質ラフトの集合がLyn活性化の上流事象であることが明らかとなった。 2.シグナル開始にはFcγR細胞内部分のITAMが必須とされていたが、FcγR細胞外、膜貫通部分の架橋のみで空間的な脂質ラフトの融合安定化、蛋白質チロシンリン酸化、カルシウム動員が生ずることをみいだした。すなわち空間的な脂質ラフト融合自身が、おそらくLynの相互活性化を通じて最初期リン酸化シグナルを惹起する可能性を指摘した。キメラFcγR分子をもちいてITAMがその初期シグナルを増幅すること、抑制配列ITIMがそれを抑制することを示し、これらがシグナルの強度を調節するモデュールであることを示した。 3.脂質ラフトのLynの基底活性は共存する抑制分子C-末端Srcキナーゼ(Csk)/Csk結合分子Cbpによって規定されると考えられる。Cbp分子の高発現がFcγRシグナルを抑制することを見出した。 4.Cbp分子がラフト会合依存性にCblによってユビキチン化、プロテアソームによる分解を受けることを見出した。5.Lynの会合分子を酵母2-ハイブリrッド法で検索し、ユビキチン転移酵素E2、B細胞受容体Igα,β会合分子とLynとの分子会合を見出した。これらの事象の抗原受容体シグナル調節における意義を解析している。
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