申請者らは、多様なチロシンキナーゼの共通基質であるrasGAP結合蛋白質p62をドッキング蛋白質Dokとして同定し、独自に樹立したDok欠損マウスを用いてB細胞抗原受容体下流で負のシグナル伝達に機能していることを発見した。申請者らの従前の研究によって、Dokとその類縁分子であるDok-2の二重欠損マウスにおいて白血球の過形成による脾臓の腫脹が頻発し、末梢血の白血球成分が増加することが明らかとなった。そこで申請者は、Dok、Dok-2の免疫シグナル伝達における機能と作用機序の解明を目的として、それらの二重欠損マウスにおける増殖抑制機構を検討した。 まず、二重欠損マウスにおいて異常増殖を呈する細胞種を特定したところ、末梢血では顆粒球と単球の増加が、骨髄、脾臓ではそれらの前駆細胞の増加が認められた。そこで、骨髄球と顆粒球の産生に重要な造血幹細胞数についてコロニー法にて解析したところ、顆粒球・単球系の幹細胞が顕著に増加していることが判明した。さらに、顆粒球・単球系の幹細胞分化、増殖に重要なサイトカインに対する血液細胞の増殖応答を調べたところ、それら全てにおいてDok、Dok-2二重欠損による増殖応答の亢進が認められた。他方、詳細な病理学的解析によってDok、Dok-2二重欠損マウスの多くに糸球体腎炎の発症が認められた。この腎炎には免疫グロブリンの沈着が認められたことから自己免疫疾患であることが示唆された。 以上の結果から、Dok及びDok-2は多様な免疫担当細胞の増殖と機能を負に制御していることが判明した。現在、この抑制の分子機構について会合蛋白質の探索とその機能解析を中心に検討すると共に自然免疫及び獲得免疫に対するDok、Dok-2欠損の影響を詳しく検討している。
|