T細胞に発現するsrc型チロシンキナーゼ、Lckは通常の細胞膜にも脂質マイクロドメイン(Raft)にも存在するが、この異なった部位に局在するLckの機能的差異は現在不明である。研究代表者はこれまで通常膜あるいはRaftに存在するLckのどちらにキナーゼ活性が強いかを検討し、Lckキナーゼ活性の大部分はRaft以外の通常膜に検出されることを見いだした。一方、RaftにLckが局在していることは、そのLckがほとんどキナーゼ活性を持たないにも拘わらず、T細胞活性化に必須である。このことは研究代表者らを含め複数のグループによって確認されている。本研究では、キナーゼ活性を持たないRaft局在のLckがどのような機能を担っているのかを解析した。 Lckを欠損したJurkat細胞株(JCaM1細胞)にキナーゼ活性を持たない変異lck遺伝子(R273)を導入し、変異Lckを発現する細胞株(JCaM1-R273)を樹立した。この細胞株のT細胞レセプター(TCR)を刺激しても、細胞内シグナル伝達反応は誘導されなかった。ところが、JCaM1-R273の細胞膜に発現するRaftを直接凝集させるような刺激を与えると、シグナル伝達反応の指標となるMAPKのリン酸化が誘導された。従って、TCRシグナル伝達にはLckキナーゼ活性の存在が必須であるが、Raftを直接凝集させて細胞内にシグナルを入れる場合には、Lckキナーゼ活性は必ずしも必要ないことが明らかとなった。ただしRaft凝集に伴うシグナル伝達経路において、キナーゼ活性のないLckは全てのシグナル伝達反応を誘導できるわけではなく、転写因子NFATの活性化はJcaM1-R273細胞においては見られなかった。以上の結果よりRaftに局在するLckはアダプター分子として機能していることが示唆された。
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