研究者は、T細胞レセプター(TCR)刺激後様々なシグナル伝達分子がT細胞膜上の脂質マイクロドメイン(ラフト)に集積することを報告し、ラフトがTCRシグナル伝達反応の起点となっていることを示してきた。本研究においては、ラフトにおけるTCRシグナル伝達の制御機構について、主として以下に述べる2つの点を解明した。まず、ラフトにおけるTCRシグナル伝達の負の調節機構に関して、アダプター分子・Cbp/PAGをリン酸化しているのはSrc型チロシンキナーゼ・Fynであることを見い出した。T細胞においては、Fynのラフトでの活性化がCbp/PAGをリン酸化し、このCbp/PAGにCskが会合してCskがラフトに集積し、このCskがラフト局在のLckの活性を抑制していることが明らかとなった。従ってこの結果より、FynによるCbpのリン酸化はT細胞を抗原に出会うまで休止状態に保つための重要な反応であることが示唆された。次に、もう一つの重要なアダプター分子・LATの凝集ラフトにおける可動性を測定した。具体的にはLAT-GFPを発現するT細胞株を樹立し、これを抗CD3抗体を吸着させたビーズにて刺激し、ビーズ周辺に形成される斑点(パッチ)を凝集したラフトとして解析した。その結果、TCR刺激によって凝集ラフトに局在するLATは他の細胞膜部分に存在するLATに比べてその可動性が低下していることが判明した。さらにこのLATの凝集ラフトでの可動性低下に関与する要因として、ラフトの脂質構造とLATの他の分子との相互作用が起こす細胞内領域が重要であることが明らかとなった。TCR刺激後ラフト局在分子の可動性が低下する現象は、持続的なシグナルがT細胞に供給されるために重要であることが示唆された。
|