研究概要 |
腸管上皮内T細胞(intestinal intraepithelial T lymphocytes : IEL)は腸管上皮細胞間に認められる特殊なT細胞サブセットとして知られている。IELの腸管への定着機構を解明することは腸管免疫機能の理解にとって重要であるが、T細胞が選択的に腸管上皮内に浸潤、定着する仕組みは未だ明らかではない。インビトロにおける実験からIELの腸管上皮内への定着は、腸管内に多く発現するTGF-βがT細胞におけるαEβ7の発現を誘導し腸管上皮細胞が発現するE-cadherinと選択的に相互作用することが重要であると考えられている。本研究で我々は、T細胞特異的にTGF-βシグナルの阻害分子であるSmad7を過剰発現したトランスジェニックマウス(T細胞特異的にTGF-βシグナルを阻害したマウス)(Nakao et al.J Exp Med 192:151,2000)を用いてその仮説をインビボにおいて検証した。このトランスジェニックマウスは、TGF-β作用の阻害によりT細胞においてαEβ7が発現せず、腸管内におけるIEL数は、野生型マウスに比べ半減していた。経口抗原に対する免疫寛容機能は、IELの関与が示唆されているが、このトランスジェニックマウスでは経口免疫寛容は成立していた。以上の事実は、IELの腸管上皮内への定着にTGF-βによるαEβ7の発現調節が一部関与していることを示唆した。本結果は、未だその全貌が明らかではない腸管免疫機構の理解にとって重要な知見である。
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