灰色かび病菌(Botrytis cinerea)の侵入器官の一つである多細胞型の第二次付着器の形成機構を解明するために、その形態形成を誘導するイノシンおよびcyclicAMPの作用機構を解析することを試みた。イノシンは、病原性の異なる複数の菌株に対してin vitroおよびin vivo両条件下で付着器形成を誘導し、キュウリ葉への感染を促進した。CyclicAMPによる誘導効果はイノシンに比べて低いが、時間の経過とともに増大することが確認された。また、cyclicAMPは本菌菌体のcell free系でイノシンに代謝されることから、イノシンが付着器形態形成の誘導因子である可能性が示唆された。次に、生体分子間相互作用解析装置(IAsys)とSDS-PAGEの組合せによりイノシンに特異的に結合する菌体成分を検出した結果、細胞膜タンパク質分画中に複数存在することが見出された。そこで、cyclicAMPで前処理した菌体膜タンパク質分画からイノシンアフィニティーカラムを用いたアフィニティークロマトグラフィーによりイノシン結合タンパク質を精製・分取したところ、19kDの結合タンパク質が得られた。このタンパク質のN-末端アミノ酸配列を決定して相同検索した結果、今回得られたイノシン結合タンパク質は、生物のシグナル伝達系で分子スイッチとして機能するGTP-結合タンパク質と高い相同性が認められた。
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