研究概要 |
外部から与えられたサリチル酸はアポプラストで活性酸素シグナルに変換され、ついでCa^<2+>シグナルとして細胞内に伝達される。このCa^<2+>シグナル発生を担うCa^<2+>チャネルの分子的実体の解明を目指し、前年度にシロイヌナズナから6つの膜貫通領域(S1〜S6)とS5とS6の間にポアループを有する2つの保存された相同ドメインから構成される仮想的カルシウムチャネルAtTPC1のcDNAをクローン化した。本年度はこの機能解析を行い以下の成果を得た。出芽酵母の仮想的カルシウムチャネルCch1欠損株にAtTPC1を導入すると、この変異株の低Ca^<2+>培地での生育を回復させた。AtTPC1導入株のCa^<2+>輸送能は野生株と同等になった。これらはAtTPC1がCa^<2+>輸送能を有することを示している。次にCa^<2+>-依存性発光蛋白質エクオリンを発現するシロイヌナズナにAtTPC1を導入し、ショ糖に応答した発光を利用して、その機能を解析した。ショ糖を受容する細胞では、ショ糖はショ糖/H^+共輸送体によって取り込まれる。このためにショ糖を取り込んだ細胞の形質膜は脱分極される。この膜電位の変化によって電圧依存性イオンチャネルが活性化される。もしAtTPC1が電圧依存性チャネルであれば,ショ糖負荷により活性化を受けるはずである。AtTPC1を導入した植物ではショ糖負荷による発光が増強された。シロイヌナズナのショ糖/H^+共輸送体であるAtSUC1とAtSUC2をAtTPC1導入植物にアンチセンス発現させたところ、ショ糖に応答した発光が顕著に抑制された。このことはショ糖/H^+共輸送体の発現が抑制されH^+輸送が低下したために、ショ糖負荷による脱分極が低下し、電圧依存性カルシウムチャネルの活性化が低下したためと考えられる。すなわちAtTPC1は内向き整流性をもつ電圧依存性カルシウムチャネルであることが間接的に証明された。
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