本研究では、植物病原細菌のタイプIII型分泌装置であるニードル複合体を発見し、その構造を明らかにすることを目的とした。 イネ白葉枯病菌ザントモナス(Xanthomonas campestris)、軟腐病菌エルウィニア(Erwinia carotovora)、青枯病菌ラルストニア(Ralstonia solanasearum)などの病原菌にはタイプIII型分泌系の遺伝子群が一通りそろっているが、まだ分泌装置ニードル複合体は見つかっていない。そこで、私たちは動物病原菌のニードル複合体を解析してきた手法を用いて、ニードル複合体の視覚化に努めた。すなわち、浸透圧ショック法により処理した細胞「オスモセル」を電子顕微鏡で観察し、細胞膜上の構造を短時間で視覚化する技術を磨いた。 これまでの経験から、この種の実験でもっとも難しいのは実験の初めのステップである培養条件の最適化である。たとえば、サルモネラ菌では塩濃度が1%以上ないとタイプIII分泌系は発現しない。また、昨年までの研究で、植物病原菌は対数増殖期の初期でのみべん毛を生やし、定常期ではべん毛を失ってしまうことから、ニードル複合体の構築も同様に成長の一時期に限られている可能性が大きい。 エルウィニアのニードル複合体をたくさん作らせる条件を確立するために、種々の培養条件で分泌タンパク質の種類と多寡を比較した。培養温度は30℃より20℃の方がタンパク質の分泌量が多く、LB培地やHRP培地よりもYP培地で多くのタンパク質が分泌されることがわかった。 以上の条件を検討しながら、エルウィニアを最適条件下で培養し、オスモセルを作って電子顕微鏡観察した。菌体あたりの数はまだ少ないが、ニードル複合体は確実に存在する。この構造体の単離精製はまだできていない。
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