研究概要 |
(1)ジアセチルレセブターを用いた回路解析 NaCl刺激と飢餓刺激を組み合わせることによりNaClへの化学走性が低下するという連合学習のアッセイ系を用いて可塑性の研究を進めている。この解析のため、ジアセチルレセプターodr-10遺伝子を個々の感覚神経に発現させることを計画したが、発現させたレセプターは機能しなかった。 (2)化学走性の可塑性に関するDAF-2の役割 インシュリンレセプター/IGF-IIレセプターのホモログであるdaf-2の変異体が、上記の連合学習のアッセイ系で欠損を示した。PI3キナーゼをコードし、daf-2の下流で働くことのわかっているage-1の変異体で調べたところ、同様の学習欠損を示した。線虫ではインシュリン様のペプチドをコードする遺伝子は多数予想されているが、そのうちのins-1遺伝子の欠損変異体で、やはり学習欠損が見られた。これらの結果より、インシュリンシグナル伝達系が行動の可塑性にも重要な役割を果たしていることが強く示唆された。 (3)嗅覚可塑性におけるRas-MAPK経路の機能 上記嗅覚可塑性は単なる感覚神経レベルの感覚順応ではなく介在神経の機能を介したものであることを示す結果を得た。すなわち、線虫を嗅覚神経AWAで受容されるピラジンに曝すことにより、嗅覚神経AWCで受容されるベンズアルデヒドなどへの化学走性が低下した。AWC, AWAの双方から入力を受ける介在神経AIYが機能欠損するttx-3変異体はこの可塑性に欠損を示した。さらに、AWCへの匂い刺激により、AIY神経でMAPKが活性化した。活性化型RasをAIYに発現させると嗅覚可塑性の欠損が見られた。以上のことから、匂い刺激により嗅覚神経からの入力によりAIYでlRas-MAPK経路が活性化され、AIYの機能により匂いへの行動が変化すると考えられる。
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