成人の脳では、γ-アミノ酪酸(GABA)はGABA_A受容体に結合し、神経細胞を過分極する抑制性神経伝達物質として知られている。しかし、幼弱な脳、あるいは成人の脳でも視交叉上核、外傷後の神経細胞に対しては、脱分極作用を示し、興奮性神経伝達物質として働くことが知られている。このGABAの持っ脱分極作用は、神経系の発達、概日リズムの形成、外傷後の脳損傷および回復過程になんらかの役割を果たしていると考えられているが、その機能的役割は不明である。最近、GABAにより脱分極する神経細胞には、Cl^-を細胞外へ汲み出すK^+-Cl^-共輸送体(KCC2)が発現していないため、細胞内Cl^-濃度が高く保たれ、Cl^-の平衡電位が静止膜電位より脱分極側にシフトしていることが示された。本研究では、K^+-Cl^-共輸送体を過剰発現させることにより、細胞内Cl^-濃度を制御し、GABAの脱分極作用のみを抑制するマウスを作成し、いままで全く実験的証拠のなかったGABAの神経興奮性作用の機能的役割を個体レベルで解明する。平成13年度は、K^+-Cl^-共輸送体(KCC2)過剰発現マウスを以下の方法で作成した。Chicken β actinのプロモター(pCAP)下流に、ラットK^+-Cl^-共輸送体KCC2 cDNAをつないだベクターを、400個の受精卵に顕微注入し、KCC2過剰発現マウスを作成した。ラットKCC2遺伝子をgermlineへ伝える4系統のマウスを樹立した。作成したマウスの中から、生後直後からKCC2を発現している系統をRT-PCRを用いてスクリーニンングし、2系統のマウスを得た。今後は、それらのマウスの生後0-4日目海馬スライスを作成し、muscimol(GABA_A受容体のアゴニスト)に対する錐体細胞の応答を記録し、GABAの脱分極作用の消失を確認する。また、個体レベルでの表現型の詳細な解析を行う予定である。
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