研究の初年度である昨年度は、小脳皮質の微細分画地図の作製についての基礎的所見として、小脳皮質が多数の微細な細い縦の帯状の構築区画に区分され、近傍の下オリーブ核ニューロンの軸索の枝は、単一の構築区画内のある範囲(セグメント)に投射することを明らかにして発表した。本年度は、それを発展させ、小脳皮質の特定領域に注目して、セグメントの構築を完全に明らかにして小脳皮質の微細分画地図を作製することに取り組んだ。これまでの研究により確立している方法に従い、ラットの下オリーブ核内に、順行性ニューロン標識物質であるビオチン化デキストランを微量、局所注入し、延髄と小脳の連続切片を作り、標識物質発色のための組織反応を行い、単一軸索の投射を解析した。注入箇所の微妙な違いに依存した投射パタンの違いを解析して小脳皮質の微細構築区画を決定した。まず、前庭動眼反射に関与する小脳の片葉において、地図を完成した。片葉は、これまで、5個のゾーンに分かれると言われていたが、本研究では更に細かく12個の細いバンド状の区画に分かれることが判明した。その細いバンドは、互いに完全に平行になっていた。下オリーブ核の中で、背帽部(DC)、腹側突出部(VLO)および内側副核(MAO)の最吻側部が片葉に投射することが分かった。DCの吻側と尾側、VLOの吻側と尾側、そしてMAOの最吻側部は、それぞれ1から4個の異なる区画に投射していた。単一軸索は、平均5.5個の登上線維を持ち、通常1個の区画内に投射していた。以上の本研究は、小脳皮質が地図状に多数の微細構築区画から構成されることを始めて具体的に示し、さらに、登上線維系の投射が、各微細区画(小脳皮質のモジュール)の機能決定に本質的な役割を持っていることを示唆する。
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