bHLH型転写因子の機能抑制因子の一つであるId2の遺伝子欠損マウスは、線条体でのドーパミン代謝冗進を伴う自発運動の冗進を示すが、この原因を明らかにするのが本研究の目的である。Id2は黒質ドーパミンニューロン自体には発現が見られないこと、また、Id2欠損マウスにおいて黒質のドーパミンニューロンの数には有意差を認めないことが明らかになっている。本年度の研究成果は以下のとおりである。 1.in situ hybridizationを用いてId2の詳細な発現解析を継続し、これまでに報告されている部位以外(淡蒼球、黒質網様体部、線条体の介在ニューロン、視交叉上核、内側膝状体、下丘、蝸牛神経核、上オリーブ核、外側膝状体、上丘など)にId2の発現を確認した(投稿準備中)。 2.in situ hybridizationを用いて神経発生に係わるbHLH因子の発現解析を行い対照マウスとId2欠損マウスで比較した。11.5日齢胎仔ではMash1、neurogenin2に差は認めなかったが、Math2はId2欠損マウスにおいて大脳皮質の発現範囲が広くかつ強く認められた。一方、出生後では、Mash1、neurogenin2、NeuroD、Math2いずれでも差を認めなかった。 3.11.5日齢胎仔の脳室帯での細胞増殖の程度をKi67抗体で検討したところ、対照に比しId2欠損マウスでは染色性が減弱していた。 4.抗GAD抗体を用いてGABAニューロンの数と分布を検討したが、対照とId2欠損マウスの差は認めなかった。しかし、スライス切片を用いた黒質網様部GABAニューロンの解析では、対照に比しId2欠損マウスで、自然発火頻度が1.3倍程度冗進していた。 5.線条体におけるpatch/matrix構造を抗μ-opioid抗体を用いて検討したが、対照マウスとId2欠損マウスの間で優位な差は認めなかった。 以上のようにId2欠損マウスにもられる多動を来す根本原因は未だ明らかにはなていないものの、黒質網様部のGABAニューロンが関与する可能性が示唆された。また、Id2欠損マウスではId1/Id3複合欠損マウスの場合と同様に発生過程において神経細胞の早期の分裂停止と分化促進が見られることが明らかになった。
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