神経細胞は、発生過程を経て極めて複雑な形態を取る。情報の出力に働く軸索は、標的細胞に発現する分子の分布に依存して軸索枝を伸ばしてその形態を獲得すると考えられる。情報の入力に働く樹状突起は、中枢での領域に依存して特徴ある形態をした幹の樹状突起を伸ばし、続いて小さいな枝となる樹状突起を伸ばして成熟した樹状突起の形態を獲得する。後者の小さな枝の形態は、年齢とともに変化したり、シナプスの分子的可塑的変化に続き変化することからも、中枢神経可塑性の基盤となることが想像される。しかしその形態形成の基盤となる分子の研究は、白紙に近い状態にある。どの様にして幹となる部分が形成され、可塑性の高い状態にある樹状突起側枝が形成されるのかを探る目的で、樹状突起の主要分子であるMicrotuble-Associated Protein2(MAP2)に着目して研究を進めた。 MAP2は、には、同一遺伝子からの選択的スプライシングによって生じた高分子量(HMW MAP2; MAP2a/b)と低分子量(LMW MAP2; MAP2c/d)のスプライシング・バリアント(SV)がある。近年さらに10種以上のMAP2-SVが見つかり、これらの発現は時間的、空間的な調節を受けていることが知られる。これまでに、それぞれのSVの分布を可視化する目的で、エキソンの繋ぎ目に対する特異抗体の作成と、エキソンの繋ぎ目に対するin situ RT-PCRの技術の確立を目指して努力してきたが、まだ成功には至っていない。 それゆえ本年度は、新しいMAP2-SVの探索とその記載に終始した。我々はヒト胎児脳(21〜30週齢)cDNA試料からのPCRと5'-RACE、およびラットE16、E17胚の脳から得られたmRNAのRT-PCRによって新規MAP2-SVを複数クローニングした。この中には新規エキソンを持つもの、いくつかのエクソンを欠き、MAP-kinaseの制御を欠くSVも新たに見つかった。
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