中枢神経系ニューロンが脳内を正しい方向に細胞移動するためには、個々のニューロンが細胞極性を獲得することが不可欠である。本研究では発生中90度の方向転換を挟み二相性の移動を示す小脳顆粒細胞を用いて、中枢神経系ニューロンの移動極性を決定する細胞内因性機構の解明を目指した。まず顆粒細胞の方向転換を再構成した培養下の顆粒細胞にGFPを強制発現させ、移動のダイナミクスをタイムラプス共焦点顕微鏡で詳細に追跡した。その結果、二相性の移動は各々将来軸索と樹状突起に分化する性質の異なる先導突起に導かれ、大脳皮質で報告された異なるダイナミクス(Somal translocationとlocomotion)を介して起ることが明らかになった。また方向転換の起る時期の顆粒細胞で特異的に発現する分子として一回膜貫通型の新規タンパク質DNER(Delta/Notch-like EGF-related Receptor)を同定した。DNERタンパク質は中枢神経系ニューロンの樹状突起に局在するが、これがDNERの細胞内領域のチロシン基モチーフとクラスリン被覆小胞蛋白質AP-1の結合に一部依存する事が明らかになった。さらに、分散およびスライス培養系を用いた解析により、DNERは中枢神経系ニューロンの細胞間相互作用に関与するシグナル分子であり、海馬錐体細胞や小脳プルキンエ細胞などの樹状突起のパターン形成に重要な役割を担う事を示唆する結果を得た。
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