研究概要 |
セマフォリンは神経成長円錐を退縮させる反発性の分子として神経回路の形成に重要な分子である。セマフォリン分子は神経回路形成が行われる胎生期のみならず成熟動物にも発現することから,シナプス形成やシナプス再構築に関与していると考えられる。私達は膜型セマフォリン分子であるM-SemaF(Sema4C)が両方向性シグナル分子として成熟脳におけるシナプス形成やシナプス再構築に関与していることを想定し,細胞内領域に結合する蛋白質を調べた。最初にM-SemaFの機能を調べるため特異抗体を作製し、イムノブロット法などを用いて発現時期を、また細胞内小器官分画法や神経培養を用いて細胞内局在を調べた。1)M-SemaFが幼若期のシナプス形成時から成熟期にかけて急速に発現が増加すること、2)脳特異的な発現を示すこと、3)後シナプス膜肥厚画分とシナプス小胞画分に特に濃縮されていること、4)後シナプス膜側では後シナプス膜肥厚蛋白質、PSD-95に結合していること、5)アフィニティーカラム法を用いてM-SemaF結合蛋白質であるSFAP75を同定した。SFAP75はテトラエチルアンモニウムによるLTP誘導によって発現誘導され神経突起伸長作用を有する蛋白質、NorbinのマウスホモログであったことからM-SemaFが興奮性シナプス後膜側ではNMDA受容体、接着分子ニューロリギン、FynやCitronなどの様々なシグナル分子と共にPSD-95を介してクラスターを形成し神経可塑性に関与していると予想される。私達は今回,6)M-SemaFのカウンター受容体を同定し、同受容体を介するM-SemaFの情報伝達機構解明の端緒を開いた。また,M-SemaFのカウンター受容体の細胞内領域に結合する分子を調べたところ低分子量G蛋白質シグナルを制御する情報伝達関連分子が結合した.即ち,後シナプス肥厚膜に局在するM-SemaFは様々な受容体分子とリンクしてこれらの細胞内局在や再分配に関与している可能性が,また,リガンドとして前シナプス側にその形態や接着に関与するアクチン骨格系シグナル伝達に関与していることが示唆された。
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