我々は転写制御因子とTATAボックス結合タンパク質(TBP)の間を仲介して転写を活性化するコアクチベーターMBF1を発見し、ショウジョウバエを用いてその個体レベルでの機能を解析してきた。その結果、MBF1と相互作用する因子のひとつとしてApontic(APT)/Trachea defective(TDF)を同定した。APT/TDFは中枢神経系(CNS)、末梢神経系(PNS)や呼吸器官である気管(Trachea)で発現している。我々はapt/tdf変異株でCNSと気管のネットワーク形成に異常が生じることを見出した。本研究ではAPT/TDFの機能解析を通して神経と気管のネットワーク形成に共通した基本的な機構の解明をめざす。 本年度の研究から以下の成果が得られた。1.抗APT/TDF抗体と全てのニューロンの核を染色する抗ELAV抗体、もしくは全てのグリア細胞の核を検出する抗REPO抗体で野生株の胚を二重染色したところ、CNSとPNSいずれについてもほとんどのニューロンとグリアがAPT/TDFを発現していることが判明した。このことは、APT/TDFが神経回路網形成において基本的な役割を果すことを示唆している。2.APT/TDFの認識する塩基配列を同定した。3.APT/TDF結合配列-1acZ融合遺伝子を導入したtransgenic f1yを作製し、APT/TDFとその結合配列に依存して1acZが発現することを示し、APT/TDFが転写活性化因子であることを明らかにした。4.mbf1欠損変異株では、APT/TPFによる転写活性化が著しく低下した。5.APT/TDFを唾腺で強制発現すると、唾腺染色体上でAPT/TDFとMBF1が共局在することを示した。6.CNSと気管のネットワーク形成において、apt/tdfとmbf1遺伝子間に遺伝学的相互作用を見出した。 これらの結果は、CNSと気管のネットワーク形成において、MBF1がAPT/TDFのコアクチベーターとして働くことを示している。
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