研究概要 |
生物の個体や器官のサイズを決める仕組みは、生物学上の基本問題であるが、ほとんど解明されていない。我々は、ショウジョウバエで個体サイズが小さくなる突然変異を分離した。これでは、細胞のサイズと数が減少していた。原因遺伝子をクローニングしたところ、出芽酵母のTim50に相同であることが判明した。Tim50はミトコンドリア内膜に存在し、ミトコンドリアタンパク質の移送に関与する。ショウジョウバエのタンパク質もミトコンドリアに局在することから、tiny tim50(ttm50)と命名した。突然変異体では、ミトコンドリア生成の異常によるATP不足により、発育異常が生じると考えられる。ttm50の強制発現により、アポトーシスが誘発されるが、バキュロウィルスのp35を共発現するとアポトーシスは完全に抑制され、細胞増殖の誘発が認められた。この時、ミトコンドリアの活性(膜ポテンシャル)は増加しており、細胞増殖につながったと見られる。さらに、ミトコンドリアからのATP産生のシグナルを伝達して成長を制御するシグナル伝達経路を解明するために、ttm50突然変異の表現型を増強する突然変異の検索をおこない、これまでに8遺伝子座を得た。これら原因遺伝子の同定を進めている。 ttm50に類似した遺伝子は、ショウジョウバエ・ゲノム中に7種存在し,3つのサブファミリーに分類できる。その内の一つ(C1)について、突然変異体を分離し、解析した。C1の完全機能欠損型突然変異は致死であるが、温和な突然変異体では、雄雌ともに不妊となった。精巣を詳しく解析すると、減数分裂前のspermatogoniaやspermatocyteの過増殖が認められた。この表現型は、BMPに相同なDppシグナル伝達経路が過剰に活性化されたときの表現型に類似することから、この経路の突然変異との遺伝的相互作用を解析した。その結果、C1はDppシグナル伝達経路における新規の負の因子であることが明らかになった。現在、その作用点の解析を進めている。
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