2本鎖テロメア配列結合因子TRF1の欠損ES細胞の解析 テロメア結合因子の一つであるTRF1は、過剰に発現させるとテロメア長の短小化・ドミナントネガティブ分子を発現させるとテロメア長の伸長が観察されることから、テロメア長を負に調節している分子であると推察されてきた。しかし最近では、TRF1はテロメア以外にも有糸分裂紡錘体や微小管に局在・結合することや、ある種の細胞に過剰発現させると細胞死を誘導することから、テロメア長の調節以外の機能が存在することが示唆されている。そこで、TRF1の機能をより正確に明らかにするために、TRF1欠損ES細胞の樹立を試み、その解析を行った。その結果、TRF1はいくつかのテロメア結合因子のプラットフォームとしての役割を持つことが示唆されていたが、TRF1がない細胞ではそれらの分子がテロメアに局在できなくなることが証明された。また、TRF1とは非依存的にテロメア配列に結合すると言われていたもうひとつの2本鎖テロメア配列結合因子、TRF2のテロメア局在がTRF1欠損細胞では低下することも明らかとなった。さらに、TRF1欠損ES細胞では明らかに増殖が阻害されること、テロメアDNAのシグナルが異常になること、染色体末端間の融合が高頻度で誘導されることが判明した。以上のことより、TRF1はテロメア長の負の調節因子としての機能だけでなく、染色体の安定性に寄与する機能的テロメア構造の維持に重要な役割を持つことが明らかとなった。 最近、細胞老化に伴ってテロメアが機能的構造を維持できなくなることが示されている。細胞の老化とTRF1の機能に関して、現在更なる検討を行っている。
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