TGF-βは、細胞に様々な反応を誘起する多機能因子である。TGF-βが誘起する反応のうち、アポトーシスと増殖停止反応は、細胞の増殖・分化の制御にも関わる重要な反応であり、細胞内で微妙に制御されることにより、細胞の運命を決定している。しかし、それを制御している機構は、ほとんど解明されていない。 当研究は、TGF-βによるアポトーシスと増殖停止を制御する分子機構を明らかにすることを目的として、TGF-βによって発現が制御されているアポトーシス誘導遺伝子(Taip)の解析を行っている。この遺伝子産物は、TGF-βによって速やかに発現し、核の周辺に集積するが、TGF-βにより増殖停止を誘起される細胞では、24時間以内に蛋白の発現が確認できなし、レベルまで落ちる。一方、TGF-βによってアポトーシスを引き起こす細胞では、TGF-β作用後12時間までに、核の凝集が始まる。これらの結果から、Taip遺伝子は、TGF-βシグナルによって引き起こされるアポトーシスと、増殖停止の分岐点(チェックポイント)で、細胞の運命を決定している機構に制御される因子である可能性がある。現在、Taip遺伝子がアポトーシスを引き起こすメカニズムを解明しているが、アポトーシスの実行因子として知られているカスペース8やカスペース9の無い細胞でもアポトーシスを引き起こすことができ、既知のアポトーシスシグナル伝達経路とは異なる経路を経て、アポトーシスを誘導していることを示唆するデータを得ている。今後、増殖停止のメカニズムへの関与についても、分子機構を明らかにすることにより、TGF-βが引き起こすアポトーシスと増殖停止のチェックポイントでの制御機構を明らかに出来るものと期待される。
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