研究課題
細胞分裂破局を制御する分子機構を明らかにし、新たな抗ガン剤感受性を規定する遺伝子群を同定する目的で、チェックポイント制御因子であるChk1キナーゼのコンディショナル欠損細胞を作製し解析を行った。Chk1欠損細胞は顕微鏡下での蛍光強度解析から、DNA複製の完了以前に染色体分配を開始する、すなわち分裂破局を引き起こすことが明らかとなった。Chk1欠失により誘導される細胞周期分裂期制御因子群の変化を解析したところ、Cdc2分子の15番目のチロシン残基のリン酸化が大きく抑制され、その結果サイクリンB-Cdc2のキナーゼ活性が大きく増加していた。一方、TUNEL染色法により分裂破局による細胞死はアポトーシスであることが示され、また生化学的解析からミトコンドリアを介したカスパーゼ依存的経路により制御されていることが明らかとなった。Chk1欠損が如何なる経路によりカスパーゼを活性化しているかを調べたところ、Chk1欠損によりS期特異的にDNA損傷が誘導されること、またこのDNA損傷はATM/ATR-Chk2-p53により制御されるDNA損傷チェックポイント機構を活性化させることを見出した。興味深いことに、分裂破局により誘導される細胞死はATMおよびATRのノックダウンにより強く抑制されること、また機能的p53の存在に依存していることが明らかとなった。以上の結果から、分裂破局による細胞死は、DNA複製完了以前に活性化されたサイクリンB-Cdc2により引き起こされたDNA損傷が引き金となり、DNA損傷チェックポイントの活性化からカスパーゼの活性化が誘導されてアポトーシスが起こったものと考えられた。
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