Cdk2は細胞周期と密接な関係を持ち、Gl-S期の移行に重要な働きをしているサイクリン依存性キナーゼである。近年、このdck2が胸腺におけるT細胞の分化、特に自己抗原特異的なクローンの除去(負の選択)に係わっていることが報告されている。今回、我々はcdk2に対する特異的な阻害剤であるolomoucineおよびroscovidtineが胸腺内においてCD4シングルポジティブ細胞を誘導することを初めて明らかにし、cdk2が負の選択だけでなく、正の選択にも関わっている可能性を初めて示した。阻害剤より作用の特異性が高いペプチドアプタマーを用いた実験によっても、この誘導作用がcdk2の阻害によって起こることが確認された。さらに、MHCを持たないマウスにおいても阻害剤添加によってCD4T細胞が誘導されることがわかり、このCD4T細胞の誘導にはTCR/MHCの相互作用が必要でないという意外な結果が得られた。誘導されたCD4シングルポジティブT細胞は分化マーカーおよびその機能解析から、成熟型のT細胞ではないことがわかった。いっぽう阻害剤添加によってはCD8シングルポジティブ細胞は全く誘導されなかった。以上の結果は、CD8系列でなくCD4系列へと発生運命を決定する際にcdk2活性の一時的な抑制が起こる可能性を示唆するものであり、細胞周期制御の要として働いているcdk2が胸腺細胞の正の選択に深く関わっていることを初めて示した本研究結果は非常に興味深いものである。現在さらにCD4系列への運命決定の際にcdk2活性の低下が必須であるかどうかについて検討を進めている。
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