われわれは293T細胞を用いた一過性発現の系で家族性乳癌の原因遺伝子BRCA1およびBARD1はともに単独では低いユビキチンリガーゼ活性しか持たないが、ヘテロダイマーになると、極めて高い活性を示すこと、さらに従来報告されている家族性乳癌におけるBRCA1のミスセンス変異がユビキチンリガーゼ活性を死活させる結果を得ていた。これに加え、大腸菌より精製したRING finger domain、BRCA1のN末端1-304アミノ酸およびBARD1のN末端25-189アミノ酸が活性に十分であることが判明した。このリコンビナントの系でも家族性乳癌にみられるBRCA1のミスセンス変異C61Gはこの活性を完全に死活させた。また、293T細胞に遺伝子移入により一過性発現させたBRCA1タンパク質はBARD1によって安定化され、逆にBARD1タンパク質はBRCA1によって安定化された。これまでにBRCA1がユビキチンリガーゼであることは報告されておらず、今回、この活性が乳癌の癌抑制に重要な役割を果たしていることが判明した。標的基質に関してはBRCA1(C61G)と共沈するタンパク質よりプロテインマイクロシークエンスでの同定を試みたが同定し得なかった。最近の解析の結果、BRCA1-BARD1によるポリユビキチン化にはユビキチンのLys-48以外を介したポリユビキチン鎖が存在することが判明しており、標的タンパク質の分解と、分解に関わっていないユビキチン化修飾の両方の機序による転写調節およびDNA修復機構が考えられる。この点も含め、今後プロテオーム解析にて基質の同定を試みる予定である。
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