動物細胞内ではmRNAはつねに特定の蛋白質との複合体であるmRNPとして存在する。細胞質におけるmRNPの主要RNA結合コンポーネントとしてY-ボックス蛋白質がある。本研究では、Y-ボックス蛋白質がmRNAとどのような複合体を形成して細胞増殖にどのような影響を与えるかを検討した。まず、アフリカツメガエル卵母細胞の貯蔵mRNPを構成するY-ボックス蛋白質であるFRGY2蛋白質とmRNAとを試験管内でインキュベートすると、安定なFRGY2-mRNA複合体の形成が観察された。この複合体をウサギ網状赤血球ライセート無細胞系に添加したところ、その翻訳効率は裸のmRNAに比べて大きく低下していた。また、FRGY2との複合体の形成により、mRNAのRNase感受性が低下することがわかった。これらの結果は、このFRGY2-mRNA複合体は、FRGY2によってmRNAがパッケージされたものであり、母性mRNAを卵母細胞内で翻訳させずに安定に長期間保存するという貯蔵mRNPの機能を再現するものであることを示している。一方、体細胞でのY-ボックス蛋白質の機能を探るため、トリDT40細胞でのY-ボックス蛋白質(YB1)遺伝子破壊株を作成した。YB1蛋白質はDT40細胞抽出液中でmRNPおよびpolysome画分に検出され、翻訳調節への関与が予想された。このYB1遺伝子破壊株では、野生株に比べて細胞増殖速度の低下、および蛋白質合成能の低下が認められたが、細胞周期の特定の時期の遅延は観察されなかった。この結果は、YB1蛋白質が翻訳調節を介して細胞増殖に重要な役割を果たしていることを示唆する。
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