脊椎動物終脳の先端部に位置する嗅球は嗅覚の一次中枢として機能する重要な領域である。この嗅球を構成する神経細胞が脳のどこから産生されて、何故終脳の先端部に嗅球が発生するのかは、未だ明らかとなっていない。興味深いことに転写制御因子の一つであるPax6の機能欠損変異マウス及びラットでは、嗅球様の構造物が終脳の先端ではなく、側面に存在する。この事実はPax6が直接的あるいは間接的に、嗅球が正しい位置に形成される機構に関わっていることが予測される。そこで本研究ではin vitroで嗅球の発生が進行させられる培養系を構築し、細胞標識実験によって嗅球神経細胞の産生場所の特定とその移動様式を追跡した。その結果、正常胚では終脳先端部の神経上皮に由来する細胞が終脳のより前方に移動することで、嗅球が形成されることが明らかとなった。ところがPax6変異ラットでは、終脳前端に位置する細胞が後方に移動して、異所的な嗅球様構造を構築することが明らかになった。従ってPax6変異ラット胚における嗅球の位置異常は、嗅球神経細胞の移動様式の異常が原因であることがが判った。
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