研究概要 |
腎臓は前腎、中腎、後腎の3段階を経て形成され、その発生の分子機構には共通のものが多い。アフリカツメガエルでは胞胚の動物極の一部(アニマルキャップ)から前腎管を選択的に誘導するin vitroの系が確立している。これを材料とし、subtraction, differential displayなどを使用し、系統的にカエル前腎管に発現する遺伝子を単離することを試みた。この過程でDrosophilaのsalに相同な遺伝子Xsal-3を単離した。この遺伝子は前腎管と中枢神経に発現していた。さらにこの遺伝子をプローブにしてマウスの新規sal遺伝子Sall1を単離した。これはzinc fingerを10個持つ核内蛋白で、ヒトSALL1に高い相同性を持ち、後腎のmesenchyme及び中枢神経などに発現していた。 マウスSall1の機能を明らかにするために、ノックアウトマウスを作成したところ、生直後に死亡し、左右の腎臓が完全に欠損していた。胎生11.5日に尿管芽がmesenchymeに進入して後腎の発生は開始するが、ノックアウトマウスではこの段階で発生が障害されており、この遺伝子は後腎発生の最も初期に必須であることが判明した。脊髄との共培養によって、Sall1 KO mesenchyme自体は分化能を保っており、誘導源である尿管芽の侵入障害が腎臓欠失の本態であることが明らかになった。尿管芽を引き寄せる液性因子の転写にSall1が関わっているというpreliminaryな結果も得られている。ヒトSALL1の変異による疾患(Townes Brocks症候群)も報告されており、この遺伝子が種をこえて腎臓形成に必須であることが判明した。今後、Sall1の上流、下流を探索することによって、腎臓発生の機構に迫りたいと考えている。
|