本研究は胎生初期から心臓で特異的に発現するホメオボックス遺伝子であるNkx2.5を軸に心臓の発生を制御する分子カスケードを系統的に解析することを目的としている。本研究の第一の目的は、Nkx2.5の発現を制御する上流遺伝子を同定することにより、マウスにおける心筋系列(cardiac lineage)の決定機構を明らかにすることである。Nkx2.5周辺のゲノムDNAを含むBACクローンを複数クローニングし、上流40kbまでカバーする5種類のレポーターコンストラクトを作製した。現在、ES由来心筋細胞を用いてのレポーターアッセイが進行中であり、さらにエンハンサーを絞り込んでいく予定である。本研究の第二の目的は、Nkx2.5の下流遺伝子群を同定することにより、心臓の初期形成やルーピングに重要な遺伝子群をクローニングすることである。8.5日胚の心臓より採取したRNAをT7またはPCRを用いて増幅し、それぞれDNAチップ、サブトラクションに用いた。得られた遺伝子については、野生型とホモの心臓での発現の差をin situ hybridizationにて確認した。今までに、ホモの心臓で発現がない遺伝子、ホモの心臓で発現が異常に増加している遺伝子を数種ずつ単離しており、現在発現パターンや機能について解析中である。Nkx2.5は、胎生中期以降の心房中隔の形成や心房内・房室間での刺激の伝導にも重要な役割を果たすが、心房のみでNkx2.5をノックアウトしたマウスを作製し、それらのメカニズムを調べることが本研究の第三の目的である。ミオシン軽鎖2Vの遺伝子座にNkx2.5をノックインするためのコンストラクトを作製し、ES細胞にトランスフェクションした。相同組みかえ体を単離し、さらにCre発現ベクターにより、Neoカセットを取り除いた相同組みかえクローンを得た。胚盤胞への注入が終了し、現在キメラマウスの誕生を待っているところである。
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