本研究では、形態の多様性を生み出す分子的基盤を明らかにすることを目的とし、本年度は、その最初の段階としてマウス胚のノードの形成機構の解析を行った。まず、ノードの形成に必須な転写因子Foxa2(HNF3β)に注目し、その遺伝子発現制御機構を明らかにするため、そのノード・脊索特異的エンハンサーを同定した。さらにニワトリとドワーフグーラミー(ゲノムサイズの小さい魚類の一種)とでFoxa2をクローニングし、それらについてもトランスジェニックマウスを作成することにより、マウスのノード・脊索で遺伝子発現を与えるエンハンサーを同定した。これら3種のノードエンハンサーの塩基配列の比較により、共通に存在する配列を同定し、その中で、CS3という新規の配列がエンハンサー活性に必須であることを見いだした。このことから、CS3に結合する未知の転写因子がノード・脊索の形成に中心的な働きをしていることが示唆された。そこでつぎに、CS3に結合する転写因子を同定するために、酵母one-hybrid法によりマウス胚cDNAライブラリーをスクリーニングし、2種類の転写因子がCS3に特異的に結合することを見いだした。そのうちの一方は、胚全体で広く発現しているが、それを転写活性化型に改変してゼブラフィッシュ胚で過剰発現させるとFoxa2の異所的な発現が誘導されることから、それがCS3活性化因子の良い候補と考えられた。よって、この広く発現している転写因子が、局所的に活性化されることによりFoxa2の発現を誘導しノードが形成されるという機構が考えられる。
|