ホメオボックス遺伝子Sixと転写共役因子をコードするEyaとDach遺伝子はネットワークを構成して協調的にはたらき、脊椎動物の多彩な器官形成を制御する「ツール」として利用されている。脊椎動物に近縁な無脊椎動物からホモログを同定し、構造と発現及び機能を脊椎動物と比較することで、各遺伝子ファミリーに生じた変化を明確にし、脊椎動物進化との関わりを推察することを目的とする。まず、原索動物マボヤから3種類のSix(HrSix1/2、3/6、4/5)、1種類のEyaとDachのcDNAを単離した。分子系統解析の結果、原索-脊椎動物の分岐後、SixとDachでは遺伝子数が2倍化、Eyaでは4倍化したという可能性が示唆された。また胚発生における発現パターンを調べた。Six3/6サブファミリー遺伝子は、脊椎動物では前脳、眼、鼻-脳下垂体の原基で発現し、過剰発現により前脳と眼の肥大化、異所的な網膜形成を誘導する。一方、ショウジョウバエSix3/6は胚前端部の上皮、上唇、複眼の成虫原基で発現し、異所発現により複眼形成を誘導する。マボヤHrSix3/6の発現は脳胞や眼点(ocellus)では検出されず、尾芽胚期で脳胞の前端部をおおう少数の上皮細胞に限局されていた。その位置は幼生で入水孔(いわゆる口に相当)が開口する部位であり、脊椎動物の鼻-脳下垂体原基、ショウジョウバエ胚前端部の上皮と上唇との進化的な関連が予想される。ところがHrSix3/6はゼノパス胚で過剰発現させると脊椎動物のSix3やSix6と同様に眼の肥大化を特異的に誘導し、類似の標的遺伝子を制御する能力を保持することが示された。以上から、マボヤ幼生の眼点はSix3/6に依存しない光受容器であることが明らかとなり、マボヤ幼生の眼点と脊椎動物の眼の形成を支配する遺伝子プログラム、両器官の発生学的な相同性に疑問を投げかける結果となった。
|