本研究課題では、動物の体腔内における内臓器官が、遺伝的に制御された空間的位置関係をたもって配置される一般的な現象の基本原理を理解することを目的として研究をおこなった。我々は、遺伝学的アプローチを用いた研究が展開できるショウジョウバエの消化管が、種固有の三次元パターンで配置されていることに着目してきた。ショウジョウバエの消化管は、発生上の由来が異なる、前、中、後腸の3つの部分からなる。前、中、後腸は、はじめ、正中線にそって左右対称に形成されたのち、背腹軸方向への屈曲と同時に、決められた方向に一定角度だけ回転することで、結果的に、一貫した左右非対称性を示すようになる。本研究では、このような消化管の明瞭な左右非対称性に焦点をあてた。 消化管の左右性に異常を示す突然変異体の遺伝的スクリーンや、遺伝子発現パターンを指標とした左右非対称に発現する遺伝子のスクリーンによって、消化管の左右非対称な三次元配置を制御する遺伝子を、全ゲノムのなかからシステマティックに検索した。その結果、これまでに、前腸に逆位が起こる突然変異体を、2系統同定できた。このうちの1つについて、突然変異の原因遺伝子を同定したところ、inscuteableであることが明らかになった。Inscuteableには、2つの機能がある。1つは、分裂軸の方向の決定であり、もう1つは、特定のタンパク質を一方の細胞極に集め、非対称に分配する機能である。そこで、inscuteableの下流で機能し、細胞運命を決定するタンパク質の非対称な分配に必須なmirandaの突然変異体を調べたところ、逆位は観察されなかった。このことから、inscuteableでみられる逆位は、非対称分裂の異常による細胞運命決定の誤りに由来するのではなく、分裂軸の方向の異常によるものだと考えられた。現在、上で述べた2つのスクリーンを、大規模におこなっている。
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