研究概要 |
発生過程での翅のカラー・パターン形成の理論的解析 理論モデルによる計算機シミュレーションはほぼ出来る状況にある。これは、イギリス、オックスフォード大学数学研究所Philip Maini教授のグループとの共同研究で進めているものである。これは、発生過程に伴って翅原基が大きさ、かたちともに変化していく過程を計算機プログラムで再現し、その複雑に変化する翅の形態状の領域内において、有限要素法の手法を使い、色素の生成を支配すると考えられるモルフォゲン濃度に関するモデル方程式:反応拡散方程式を数値的に解くものである。計算における境界条件などに関する確かな実験的情報が得にくい状況の中で、現在ある意味で試行錯誤的にカラー・パターン形成過程を再現している状況にある。今一番必要な事は、計算機シミュレーションに必要な確かな実験的データを得ることである。そのために、共同研究者であるデューク大学のFred Nijhout教授との話し合いが必要であり、中部大学においても実験が可能となるような環境をととのえる必要があると考えている。 理論モデルを使った仮想的実験 我々は、雌の擬態多型で有名な蝶オスジロアゲハ(Papilio dardanus)の翅全体のカラー・パターンがある種の縞紋様(Stripe pattern)とみなせる事を数理モデルと計算機シミュレーションによって確かめた(Sekimura, et al., Proc. Roy. Soc. Lond.B267,851-859(2000))。今年度、更に我々の数理モデルの妥当性を確かめる一つの方法として、実験的にチェック可能な状況を計算機でシミュレーションを行った。すなわち、翅の一部を切り取った場合の翅のカラー・パターンの変化と翅に穴をあけた場合のカラー・パターンの変化を予測するものである。結果は、翅の一部を切り取るとカラー・パターンは大きな変化を被り、翅に穴を空ける場合は相当大きな穴でなければほとんどカラー・パターンは影響を受けない、というものである。 カラー・パターンを生成するパラメータの検討 我々は、反応拡散方程式を使った数理モデルによって、オスジロアゲハ(Papilio dardanus)の翅全体のカラー・パターン形成をシミュレーションしているが、現実のさまざまなパターンを再現するのに必要な計算上のパラメータは翅の外形、境界条件、色を決定する閾値、などで比較的少なく、この事は遺伝学的実験結果や計量形態学的結果と通するものである。上記の計算上のパラメータがカラー・パターンを形成する上でどのように効いているかをさまざまな計算機シミュレーションにおいて確かめた。これらのパラメータは、雄のパターンも含め、多型雌のパターン間の進化的関係を理論的視点から議論する上で重要なものである。現在、HFSPプロジェクトで進んでいる、発生遺伝学的視点、計量形態学的視点と併せたオスジロアゲハの擬態の統一的見方の構築が期待される。
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