法整備支援とは、資本移転のための法の平準化・共通化という「戦略的」課題への対応という側面を有するが、「法整備支援」につきまとう一方向的「援助」という視点ではなく、法の移植に関わる問題を双方向的に捉えつつ、比較法学による「総合化」がなされる必要がある。その際、ヨーロッパにおける法の調和的発展が「人間の尊厳」を価値的な基盤として展開しつつあることが、批判的視点を含めて参照されるべきであろう。この意味ではこの課題は、ヨーロッパ発信の比較法学の「普遍主義的」潮流の延長にあるが、比較法の理論の関係では、法と社会との全体的、部分的、断片的なカプリングの有り様にしたがって法の移植は可能である場合とそうでない場合があるのであって、一義的な説明は適切ではないであろう。また、そこでは歴史・地域研究の成果とそれとの協働が不可欠となるのであって、わが国ではその面でユニークな理論を構築できる研究上の基盤がある。最終的なとりまめを目指して、東京地区を中心とするこの班では、今年度は、このように「法整備支援」に限定したとらえ方ではなく、現代における法と社会の関係についての一つの特徴的現象としてこの課題を分析することとし、対象を「市場経済化」と所有、とりわけ土地のそれに限定することとした。そのため、昨年度まで行ってきたベトナムにおける「土地使用権」の問題を中国との比較で見る視点を導入し、現地の研究者との間で、主に以下の論点について意見交換を開始し、最終年度はこれを本格的にとりまとめる予定である。1)市場経済化と社会主義、「所有」による土地の「国家管理」、「契約」による商品化と司法機構2)不動産権の構造(土地建物の関係)、土地法と民法、登記制度、3)所有権と公共的な制限と「国家的公共性」、4)農業政策と農地集積、農民層分解、「経営」団体等。
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