研究概要 |
【人工フラビンを用いたアシルCoAデヒドロゲナーゼによる新規反応の開発】 中鎖アシルCoAデヒドロゲナーゼ(MCAD)はFAD依存性のフラビン酵素である.FADのフラビン部分を人工フラビンに置き換えることによって,本来MCADが触媒し得ないような基質を触媒する新規な能力を持たせることに成功した.用いた人工フラビンは,フラビン環の7-位,8-位を,種々の置換基(8-CN,8-Cl,7,8-Cl_2,8-NH_2,8-OCH_3)に置き換えたものである.特に,8-CN-FADで再構成したMCADは,プロピオニルCoA,3-ケトオクタノイルCoAを脱水素するという,本来MCADが持っていなかった新規の反応性を示し,MCADの新規な反応を開発することに成功した. 【MCAD-3-チアオクタノイルCoA複合体の結晶構造解析と分子軌道計算による電荷移動相互作用の検証】 MCADの基質アナログである3-チアオクタノイルCoA(3S-C8-CoA)との複合体の結晶構造解析に成功した.3S-C8-CoAは,基質のアシル鎖のβ位のメチレンがイオウ原子で置き換わっているためにMCADとの複合体は7遷移状態アナログとみなされる状態で留まっている.したがって,この複合体の精密構造解析は,MCADの遷移状態の情報を提供する.MCAD-3S-C8-CoA複合体の結晶構造から,この複合体における3S-C8-CoAとフラビン環との相互配置が判明した.それによると,3S-C8-CoAのイオウ原子は,フラビンのN(5)位に接近しており,本来の基質との反応においてβヒドリドがフラビンのN(5)に移動することを構造的に確認することができた.3S-C8-CoAとフラビンの相互配置をもとに,密度汎関数分子軌道計算をおこなった結果,この複合体において,アニオン型3S-C8-CoAからフラビンへの電荷移動が確認され,従来からいわれていた電荷移動相互作用の理論的な根拠を得ることができた.
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