研究概要 |
アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AspAT)の反応機構は基質アナログとの反応を中心に解析されてきた。そこで真の反応過程がどうなっているか知るために,正常基質との反応を時分割スペクトルの採取とグローバルアナリシスによって解析した。さらに重水素同位体効果の解析を組み合わせることにより,重要な中間体間の速度定数の大部分を決定することが出来た。その結果はおおむね基質アナログとの反応によって得られた反応機構を支持するものであったが,触媒過程に重要な意義を有していると考えられて来た「基質結合に伴う補酵素-Lys258シッフ塩基のpK_aの上昇」がより顕著に見られ,その反応機構における意義が改めて注目された。 次にその塩基性上昇のメカニズムを探った。基質結合は酵素蛋白質のコンフォメーション変化を起こす。そこで酵素の大小ドメイン間に存在するVal39をよりかさ高いPheに置換した酵素を作製して解析したところ,基質結合に伴って大小ドメインが接近するとGly38主鎖のカルボニル基がシッフ塩基に接近するために,脱ブロトン化状態にあるシッフ塩基と静電的な反発を起こし,結果的にそのpK_a、を高めることが判明した。これについて三次元エネルギー準位解析を行った結果,従来から言われてきた「基質結合に伴うシッフ塩基のpK_aの上昇」には本質的な意義を持つものではなく,ミハエリス複合体の不安定化によるた。k_<cat>の増大が目的であることが示された。 ヒスチジノールリン酸アミノトランスフェラーゼ(HisPAT),分枝アミノ酸アミノトランスフェラーゼ(BCAT)について単独および基質(アナログ)複合体の結晶構造を得た。またセリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SerPAT)については解析に容易な可溶性酵素を産出する菌を発見し,精製・クローニングを行った。いずれも平成14年度の酵素触媒反応の解析のための土台となるものである。
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