研究概要 |
アスパラギン酸アミノ基転移酵素(AAT)は炭素数4個の基質(C4基質)と5個の基質(C5基質)の両方を基質とする.この二重の基質認識機構を前年度に引き続き解析した.遷移相速度論的解析・分光学的解析により,C4基質とAATのミハエリス複合体が閉じたコンフォメーションを取っているのと異なり,C5基質とAATのミハエリス複合体は開いたコンフォメーションを取っていることが判明した.一方,ミハエリス複合体から1段階進んだ外アルジミン複合体(活性部位において基質アミノ酸と補酵素ピリドキサールリン酸がシッフ塩基を形成したもの)においてはC5基質とAATの複合体もC4基質とAATの複合体と同様に閉じたコンフォメーションを取っていることをX線結晶解析で明らかにした.そこで,C5基質との反応においては開いた構造であるミハエリス複合体を閉じた構造である外アルジミン複合体にエネルギー的に近づけるための方策が必要となる.C5基質のミハエリス複合体のモデルであるグルタル酸とピリドキサミンリン酸型AATの結晶構造を用いて構造を比較したところ,C4基質のミハエリス複合体では活性部位表面の疎水性残基群が閉じたコンフォメーションになる際に互いに強く相互作用しているが,C5基質のミハエリス複合体ではこの相互作用が消失しているのがそのエネルギー準位を高めている理由であることが判明した.事実,この疎水性残基群の1つであるTyr70のベンゼン環を消失させる変異ではC5基質に対するk_<cat>が大幅に低下することが示された.このようにしてAATの疎水性残基群がAATのC5基質の結合(K_m値)を犠牲にして最大反応速度(k_<cat>値)を増大している機構を担っていることを明らかにし,触媒パーツの機能を基質認識パーツが高めているというコンポジット触媒としてのパーツ間の有機的な相互作用の形態を明らかにした. この他,セリンパルミトイルトランスフェラーゼにおいて反応パーツの多彩な機能を基質認識パーツが制御している機構を明らかにした.これは電子軌道のオーバーラップを制御するという立体化学的な機構に基づいており,AATとは別の意味で興味深い知見である.
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