研究概要 |
ピリドキサール酵素のプロトン移動過程を調べることにより,従来概念の域を出なかった「誘導適合が触媒能力を高める機構」や「多基質認識の機構」の分子論的実体を明らかにすることができた. アスパラギン酸アミノ基転移酵素(AAT)は基質結合に伴って大小ドメインが接近するとGly38主鎖のカルボニル基がシッフ塩基に接近するために,脱プロトン化状態にあるシッフ塩基と静電的な反発を起こすことが判明した.これについて三次元エネルギー準位解析を行った結果,従来から言われてきた「基質結合に伴うシッフ塩基のpK_aの上昇」には本質的な意義を持つものではなく,ミハエリス複合体の不安定化によるk_<cat>の増大が目的であることが示された. AATとグルタミン酸(C5)の遷移相速度論的解析やX線結晶構造解析の結果,ミハエリス複合体ではC5基質はC4基質と異なりAATは開いた構造になること,一方,反応が1段階進んだ外アルジミン複合体では閉じた構造になることが判明した.C4基質のミハエリス複合体では活性部位表面の疎水性残基群が閉じたコンフォメーションになる際に互いに強く相互作用しているが,C5基質のミハエリス複合体ではこの相互作用が消失しているのがそのエネルギー準位を高めている理由であることが判明した.このようにしてAATの疎水性残基群がAATのC5基質の結合(K_m値)を犠牲にして最大反応速度(k_<cat>値)を増大している機構を担っていることを明らかにし,触媒パーツの機能を基質認識パーツが高めているというコンポジット触媒としてのパーツ間の有機的な相互作用の形態を明らかにした. この他,セリンパルミトイル転移酵素において反応パーツの多彩な機能を基質認識パーツが制御している機構を明らかにした.これは電子軌道のオーバーラップを制御するという立体化学的な機構に基づていることを明らかにした.
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