アルカンの代表としてシクロヘキサンを用い、部分酸化可能なアノードの探索を行った。その結果、Ir化合物をカーボンファイバー(CF)上に担持して作製したアノードは室温でシクロヘキサンを部分酸化できることを見出した。特にIr(acac)_3/CFアノードは高活性であった。Ir(acac)_3/CFの電極触媒作用の詳細を明らかにするために詳細な検討を実施した。アルカンの炭素-水素結合は強く、その酸化電位は1.6V以上であり、水が共存する反応系では水の電気分解(1.23V)が優先的に進行してしてしまうために、直接電解酸化することは不可能であると考えられてきた。上述したように、Ir(acac)_3/CFアノードを用いれば室温でシクロヘキサンの部分酸化反応が進行し、主生成物としてシクロヘキサノンが生成した。この現象は、アルカンのC-H結合の電気化学的な直接酸化では説明できない。我々は、Ir(acac)_3/CFアノード上で、水分子が活性化され、活性酸素種が生成し、これが非電気化学的にシクロヘキサンを酸化していると考えられ、つまり水を酸化剤としたシクロヘキサンの間接電解酸化が進行している。Ir(acac)_3/CFアノードはアルカン電解部分酸化に対して極めて有効な陽極である。本反応系は隔膜電解法を用いている。隔膜電解法の反応工学的特徴は、多孔質電極膜(Ir(acac)_3/CF)の片側に基質、反対側に電解質水溶液が接しており、多孔質電極膜中に界面が形成されていることである。そこで一般的なH型電解セルを用いて、Ir(acac)_3/CFアノードを電解液中に挿入し、シクロヘキサンの部分酸化を試みたが、全く酸化反応は進行しなかった。この結果は、隔膜電解法の反応場構造が重要な因子であることを示している。つまり電極の表と裏から基質と酸化剤が別々に供給される反応場が必要不可欠であることがわかった。
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