気固系におけるシクロヘキサノンオキシム(CHO)のベックマン転位反応を希釈溶媒を変えて行うと、ε-カプロラクタム(CL)の選択性が向上し、また触媒寿命が長くなることを見出した。さらに、希釈ガスもCLの選択性及び触媒寿命に影響することが分かった。以上の研究から同一触媒を使用しても反応場を変えることによって、触媒性能が異なることが分かった。このことは、反応のメカニズムに反応場が深く関与していることを示している。 本研究では、これらのことを体系化するため、市販のシリカ・アルミナあるいはゼオライト触媒に希土類硝酸塩を含浸させ、これを空気焼成して触媒の酸性度を変えた。また、焼成による表面状態をデジタルマイクロスコープで観察した。さらに、酸性質をフーリエ変換赤外分光光度計で測定した。このように物理的・化学的特性を調べた触媒を固定層反応器に充填し、反応温度350℃で、各種溶媒で希釈したCHOを供給し、さらにこの混合蒸気を希釈ガスで20%になるよう調節して反応器に供給した。一定時間間隔で液状反応物質を採取した。ガスクロマトグラフを用いて組成を分析し、この変化からCL選択率及び触媒寿命の計算を行った。 希釈溶媒としてはアルコールあるいはエーテルのような含酸素化合物が効果的であり、希釈ガスとしては1000ppm程度の酸素を含む不活性ガスが有効であった。また、ハイシリカZSM-5型ゼオライトを使用すると、触媒の半減期が2200時間に達することが分かり、工業触媒として十分な寿命があると判断された。また、希釈ガスは触媒上に付着したコークを酸化させ、希釈溶媒は活性点に強く吸着している物質を除去する作用があると考えられる。このように、反応場を変換することで触媒性能を大きく変えることができることを実証した。
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