錯形成による分子構造の変換によって機能の制御ができるシステムの構築を目的に以下の検討を行った。設計・合成したメタロホストは、本研究の課題であるレドックス応答性メタロホストの構築の基礎研究となるものである。 最初の分子はポリエーテルの末端にビピリジンを有するトリポダンドで、Fe(II)と錯形成して擬クリプタンドになることが明らかとなった。この分子はポリエーテル部からなる空孔をもち、ここにセシウムイオンを選択的に取り込むこともわかった。また、対応するRu(II)擬クリプタンドの合成にも成功し、この分子もアルカリ金属イオンを取り込むことが明らかとなった。現在、これらのメタロホストの酸化還元反応に対する反応性について検討中である。 不斉情報の伝達のための分子システムの構築を目指して、光学活性なビナフチル部位と含ビピリジンポリエーテル鎖を二本もつ化合物を合成した。この分子はCu(I)と錯形成し、擬クラウンエーテル型メタロホストを与えた。このホストでは、ビピリジンーCu(I)錯体部が正四面体型となるため、二つのジアステレオマーの混合物となり、その比はほぼ1:1であった。しかし興味深いことに、ナトリウムイオンを添加するとほぼその一方となった。これは擬クラウン環にイオンが取り込まれて、ビナフチル部位の不斉情報がポリエーテル鎖を介して伝わり、Cu(I)錯体部の不斉構造が制御されたことを示している。 三つのsalen部位をもつ三角形の新規ホストを合成し、これがその空孔内に水分子を複数の水素結合によって取り込むことを見いだした。現在、このホストのsalen部位による金属錯体の形成について検討中で、メタロホストへの展開やこれを基本ユニットとした分子集積体の構築についても検討中である。
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