Lipo-(L-Leu-Aib)_n-OBzl(n=12;LipoとOBzlはそれぞれリポ酸とベンジルエステルを表す)を合成し、金基板とインキュベートすることで、ヘリックスペプチド自己組織化膜(SAM)を得た。FTIR-RASを測定してヘリックス軸の垂直方向からの傾き角をアミドIとアミドIIのシグナル比から求めたところ、垂直配向に近いことがわかった。このヘリックスペプチドSAMをSTMにより観察したところ、バイアス電圧を約2Vかけることでイメージを得ることに成功した。STM測定から求めた膜厚は約4nm程度であり、FTIR-RASを測定して求めた膜厚と矛盾しなかった。一般に、1nmの膜厚を越える有機薄膜のSTM観察は、その絶縁性のため非常に困難である。このペプチド薄膜が誘電体としての性質をもつ以外に、ある条件では導電性をも示す可能性をことのことは示唆している。そこで、STS測定を行った。マイナス3Vからプラス2V程度のバイアスを印加しても、殆ど電流応答は観測されず、この範囲でペプチド薄膜は絶縁体として振る舞うことが示された。しかしながら、バイアス電圧が約2Vを越えると、ナノアンペア以上の電流が観測され、10^<-2>S/cmオーダーの導電性が観察された。ペプチド分子の末端に位置するベンゼン環のLUM0のポテンシャルが、プラスの印加電圧により探針のフェルミ準位と等しくなることにより、探針からペプチド薄膜のベンゼン環へと電子が移動し、ペプチド薄膜のダイポールの助けを借りて、電子はさらに金基板へと移動すると考えられる。前者のプロセスはトンネル電流と考えられるが、後者では、ペプチド薄膜が電子移動の媒体となっていると考えられる。
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