本研究は液体統計力学の手法の一つである密度汎関数理論に基づき液液界面の構造およびそのダイナミックスを分子レベルで解明する理論的方法論を構築することを目的とする。本年度は液液界面の理論的取り扱いの第一歩として、下記の問題に取り組みその成果を2報の論文として発表した。 (1)分子性液体のvan der Waals-Maxwell状態方程式理論の提案 1870年代に提案されたvan der Waals状態方程式は気体と液体の相転移を取り扱うことができる理論として100年以上もの間、化学、物理、工業化学の分野に君臨んしてきた。しかしながら、この理論は分子サイズと分子間引力に関する現象論的パラメタを含む経験的理論であり、その分子論すなわち統計力学的な基礎づけは、長年、理論物理における中心的課題のひとつであった。これまで、提案された多くの理論は相転移のuniversalityに着目しており、分子の化学的個性はむしろ排除されてきたと言ってよい。われわれは、今回、RISM理論に基づき分子性液体の化学的個性に着目した気液相転移の理論を提案した。この理論は従来のRISM理論がもっていた低密度領域における弱点を克服する新しい近似理論の提案によって初めて可能になったものである。この結果、相転移の物理的普遍性を保持しながら、水やアルコールなどの化学的個性を表現する新しい気-液転移の取り扱いが可能となった。 (2)多孔質物質-溶液界面の構造と物性 多孔性物質-溶液界面の構造と物性は古くからイオン交換樹脂や「分子ふるい」など工学的に重要な問題であるが、最近では、大気環境におけるアエロジェル中での光化学反応や燃料電池などの工業的的応用においてもその重要性が認識されつつある。一方、その理論化学的研究は十分になされていない。特に、細孔がランダムに分布した多孔質物質は分子シミュレーションの方法ではほとんど取り扱い不可能で、統計力学の助けを借りる必要がある。われわれはスピングラスの分野において開発されたレプリカ法とRISM理論を組み合わせることにより、この問題を解明する新しい理論を提案した。この理論は液相の水やアルコールなどの化学的個性のみならず多孔質内の官能基のそれも考慮できる点で、ナノサイエンスを含む化学における広範な応用が期待できる。
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