研究概要 |
本研究は液液界面におけるナノスケールの自己組織化現象を分子レベルで解明するための方法論を積分方程式理論に基づき構築することを目的としている。本年度は次ぎの問題に関する理論の定式化と数値計算を行った。 (1)水-アルコール混合系の溶液構造 (2)多孔性物質中での水およびアルコールの気液平衡 これらの研究の成果はそれぞれ下記のとおりである。 (1)我々(Kovalenko-Hirata)が最近提案した新しいクロージャーを含むRISM積分方程式(RISM/KH理論)に基づき、水-ブタノール混合系の溶液構造を解析した。その結果、ブタノールの濃度が希薄な領域では、水の水素結合ネットワークに組み込まれたブタノール同志がそのブチル基を接触するように溶け込んでいる、すなわち、一種の小さなミセルが出来たような状態であることが分かった。(J.Phys.Chem.B.,106,5042(2002).) (2)多孔性物質内の気液平衡に関してはこれまで多くの実験的研究が行われており、いくつかの興味深い結論が得られている。それらによると、細孔中では、まず、気液平衡の臨界温度が降下する。さらに、水は気液平衡に対応する1個のスピノーダルを示すのに対して、アルコールは密度が低い領域で2個のスピーノダルを示す。我々はスピングラス分野で開発されたREPLICA理論をRISM/KH理論と組み合わせることにより、多孔性物質中での水およびアルコールの気液平衡の解析を行った。その結果、上に述べた実験結果を定性的に再現すると同時に、アルコールにおける2個のスピノーダルのうちの一つがアルコールの炭素壁面への吸着に対応するものであることを解明した。(J.Theor.Comp.Chem.,1,381(2002).)
|