研究概要 |
本年度は,昨年度開発した時系列データの多重スケール解析法を共通データである肝炎データセット対して適用し,得られる知識の有効性と妥当性を検証するとともに,問題点を洗い出して方法の洗練化を進めた. 年度前半では,肝炎に関する検査の中で比較的実施頻度の高い血液生化学検査のデータを対象として解析を行なった.その結果,GPTの推移パターンとIFN(インターフェロン)治療の奏功度の関連について以下の知見を得た.(1)第1のパターンは,C型でIFN治療適用例が多数を占めるクラスタに見られ,同クラスタでは,GPTの値がIFN投与後に下降し平坦化していた.このパターンは,IFNが著効でウイルスの活動が沈静化したケースと考えられる.(2)第2のパターンは3つのクラスタで見られ,いずれもGPTの値が長期間に渡り上下動を繰り返した.このパターンはB型およびIFN治療非適用のC型の例でも共通して観察されることから,IFN治療の非有効例を示している可能性が示唆された. 年度後半では,新たに提供された血算データに対する解析を行なった.その結果,血小板数とIFN治療後の長期予後等に関して以下に示す知見が得られた.(1)IFN治療終了後に徐々に血小板数が増加する例,すなわち,肝機能の回復に伴って血小板の産生量が回復する場合のパターンからなるクラスタが生成された.一方で,IFN治療終了後にも慢性的に血小板数が減少を続ける例からなるクラスタも生成された.これらは,IFN治療の奏功度が高い場合には血小板数が増加し,逆に奏効度が低い場合には血小板数が減少し続け,出血傾向が見られるという知見をデータにより例証するものである.(2)IFN治療の奏効度が低い例からなるクラスタを対象に,繊維化の度合いと血小板数が基準値を下回るまでの経過年数との関係を統計解析した結果,繊維化の度合いが高い例ほど,また繊維化が同程度である場合には肝炎ウイルスの活動性が高いほど,血小板数が異常低値に至るまでの経過年数が低いことがわかった.これらの結果から,血小板数が治療の長期予後を予測する指標になりうること,また,血小板数から線維化.活動性の程度が予想できうること,の2点が仮説として提示された.
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