研究概要 |
本研究の目的は、DNAの相補的水素結合を利用して光機能性クロモフォアをエネルギー順位の順で空間的に配列し、人工光合成の光捕集アンテナを模したDNA二重らせんに沿った遠距離・多段階の光エネルギーのベクトル的輸送および化学エネルギーへの変換の達成である。今年度は,光エネルギーのドナー,メディエイター,アクセプターとして,三種類のクロモフォア(JOE, TAMRA, ROX)を選択した。それらを既に報告した方法に従って、シーケンスの異なる10残基のオリゴDNAの5'末端に導入したコンジュゲートを合成した。続いて,これらのコンジュゲートに相補的な配列をつなぎ合わせた配列を有する30残基のマトリックスオリゴDNAと各コンジュゲートとを水溶液中で混合し,DNA二重らせんに沿ってクロモフォア・アレイを形成させた。まず,定常光励起による蛍光スペクトル測定を行なったところ,より吸収波長の短いクロモフォア(JOE)の蛍光の消光,および吸収波長の長いクロモフォア(ROX)の発光が観測され,クロモフォア・アレイ上でメディエイターであるTAMRAを介したJOEからROXへの光エネルギー移動が起こっていることが示唆された。次に、フェムト秒パルスレーザーを光源に用いた時間分解蛍光スペクトル測定および蛍光寿命解析を行なった。その結果,JOEの吸収波長でパルス励起した後,50-300ps後にTAMRAに由来する蛍光が観測され,さらに時間をおいて700psを超えたあたりからROXに由来する発光が観測された。この結果から,観測されたROXの発光は,初期励起によるものやJOEからの直接のエネルギー移動によるものではなく,メディエイターであるTAMRAを介した光エネルギー移動による発光であることが証明された。また寿命解析からこの2段階のエネルギー移動のエネルギー移動効率は,約53%であると見積もられた。
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