研究概要 |
(1)シンジオタクチックポリスチレン(sPS)が各種有機溶媒分子をゲスト分子として包接して形成するδ形コンプレックス結晶から,ゲスト分子を取り除いて,この"抜け跡"がサイズ・形状等が高度に制御された"分子キャビティー"と見なせる構造,即ち"メゾフェイズ"構造含有sPS膜を,δ形コンプレックス結晶がゲスト分子のサイズに依存して異なる点に着目し,異なる分子キャビティーを有するメゾフェイズ含有sPS膜の調製を試みた.具体的にはゲスト分子にトルエンとクロロホルムを用い,昨年度報告した二段階抽出法で二つのメゾフェイズ含有sPS膜を調製し,その構造とトルエン及びクロロホルム蒸気収着特性を検討した.X線解析の結果,分子キャビティーはゲスト分子の大きさを反映していた.各蒸気の収・脱着等温線を得,これからメゾフェイズ相のみの等温線を求め,その飽和収着量を見積もると,分子キャビティーの大きさを反映した結果が得られた.以上より,メゾフェイズ含有sPS膜の分子キャビティー構造は調製時に用いるゲスト分子で制御可能であり,更には選択収着能をも制御できる可能性が示された. (2)ポリジメチルシロキサン(PDMS)とポリメチルメタクリレート(PMMA)からから成るブロック共重合体膜がミクロ相分離構造をとり且つPDMSの連続相を有すると,水中に溶存するベンゼンなどの環境ホルモン様物質を選択的に透過除去するが,更に選択透過性を高める目的で,この共重合体膜にベンゼンに対して親和性の高いカリックスアレン(CA)を分子キャビティーとして導入することを試みた.CA含有量の増加に伴いベンゼン選択透過性は著しく増し,さらに透過速度も増大した.この優れた膜性能はCAの存在により,膜とベンゼンの親和性が増すと同時に,膜中に取り込まれたベンゼンがCAをキャリヤーとし,促進輸送されることに基づくと考察された.
|