研究概要 |
計算機シミュレーションを用いて、高分子膜構造の構築、分子構造の解明、気体透過性、低分子の溶解度等の研究を行った。手法として、高分子凝集体の動的な構造を知るための分子動力学(MD)シミュレーションを用いた。スマートメンブレンを対象とするため、今年度はまず層状構造を形成する液晶性ポリエステルについて検討した。ピロメリット酸の1,4ジアルキルエステルと4,4'-ビスフェノールからなるポリエステルの構造を作成した。この分子は側鎖アルキル基の炭素数が適当な場合、分子オーダーで層状構造を形成することが知られている。側鎖炭素数が6と14の2つの構造について検討した。この高分子の層状構造をシミュレーションで行うには、種々の検討事項が必要であった。例えばベンゼン環のオルト位の2つのエステル結合の適切なコンフォメーションの検討、それに伴うポテンシャルの決定、アルキル基の初期配向状態、主鎖の初期構造位置などである。12本鎖の構造に対し、初期コンフォメーションとしてアルキル鎖が分子主鎖に対してほぼ垂直方向に伸びている状態を採用し、妥当な構造を作成した。25℃におけるバルクの密度と分子鎖相間の長さは実験値とほぼ一致する構造を得た。次にシンジオタクチックポリスチレン(sPS)とキシレンコンプレックスについても検討した。sPSδ型結晶膜中における低分子の透過挙動を明らかにすることを目的としてMDシミュレーションを行った。独自開発した分子シミュレーションプログラムの改良を進めた結果、種々の結晶構造の生成、大規模な系への対応、並列計算機による高速な計算が可能となった。20個の基本炭素原子の部分座標を展開することにより、5760個の炭素原子よりなるsPSδ型結晶の構造を得た。シミュレーションの結果sPSの結晶構造は安定に保たれ、高分子鎖の間でp-キシレンが振動している様子が明らかとなった。
|