研究概要 |
1.シミュレーションによる結晶性高分子における分子キャビティの解析 高分子結晶構造の分子動力学(MD)シミュレーションを行うために、独自開発したプログラムの改良を進め、種々の結晶構造の生成、大規模な系への対応、並列計算機による高速な計算を可能とした。まず、シンジオタクチックポリスチレン(s-PS)の4種の結晶多形体(α,β,δ,δ_e)についてモデル構築を行い、MDシミュレーションによって平衡構造を得た。これらの結晶構造はいずれも実験結果によく対応した。さらにδ型結晶からγ型結晶への転移についてもシミュレーション上で確認した。α,β,δ,δ_eの各結晶構造中における分子間空隙のサイズ、形状、連結性について詳細な検討を行った。その結果、「分子キャビティ」と「分子キャピラリー」という2つの異なった形態を見出した。α型結晶におけるキャピラリー状の特殊な空隙の連結性と不活性ガスの拡散挙動を解析した。δ型結晶については、結晶構造内のベンゼンとトルエンの運動性や拡散性の異方性を検討した。その結果、それぞれのゲスト分子では特徴的な運動性が見出された。さらにδ_e型結晶については、不活性ガスの拡散定数、及びその異方性を計算によって求め、キャビティー構造との対応関係を明らかにした。これらの研究はMacromol.Rapid Commun.やChem.Phys.Lett.の各紙に掲載された。 2.シミュレーションによる液晶高分子の構造作成と分子キャビティの解析 測鎖に柔軟なアルキル基を有する液晶性ポリエステルの層状構造が、MDシミュレーションによって安定に存在することを確認した。分子間空隙の解析を詳細に行い、分子キャビティーの分布を検討した。側鎖アルキル基の運動性を対応するアルカンと比較した結果、極めて運動性が抑制されていることが明らかとなった。アルコキシ側鎖を有する液晶性ポリエステルのカラムナー相構造の作成についても成功し、安定性を評価した。
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