研究概要 |
1.環状分子を用いた「スマートメンブレンの分子設計」について,シミュレーションにより分子設計を行うという課題に沿って,新規分子の設計を進めている。ハニカム構造を有する剛直ポリイミドの実験的な作成にヒントを得て,剛直ポリイミド鎖から環状分子の堆積によって円筒型の分子キャビティーができる可能性を分子軌道計算によって見出した。さらにビフェニレン環を骨格とする環状ポリイミドと含フッ素タイプのものについても安定構造を見出し,キャビティーの内径を制御する可能性を示した。これらは剛直鎖を用いた環状分子である点でユニークな研究であるといえる。環状分子の合成についても,他の研究班によって実際に合成可能であるかを確認し,新規分子の誕生を期待しているところである。 2.シンジオタクチックポリスチレン(s-PS)結晶における分子キャビティの解析については,実験的には判断が難しい分子オーダーの詳細な結晶構造変化や,分子キャビティの形状の解析をシミュレーションの立場から行ってきた。s-PSのα型結晶とδ型結晶はスマートメンブレンとしての機能を有していると予想されるため,精力的に研究を進めた。特に,キャビティーの構造解析,キャビティー中における気体の溶解度や拡散係数の決定に関しては,実験グループと緊密に連携し,分子キャビティーの理解が飛躍的に進歩したといえる。また,δ型結晶中へのベンゼン,トルエン,クロロホルムなどの有機液体の溶解度および拡散係数の予測についても年度内に完了する。実験によりキャビティーの分子レベルの形状や結合性を調べることは極めて困難であるが,シミュレーションによりこれらを定量的に調べることが可能となった。「構造解析」の新たな手段として有効に機能しているといえる。また,これまで実験では決定されていなかったγ型結晶の構造がシミュレーションによりはじめて明らかになるなど,「予測」という面においても威力を発揮している。
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