研究概要 |
本年度は下記の2つの研究テーマについて研究した。 (1)光学活性基を有するスマートメンブレンの創成と光学分割の評価 [1]ベース膜として分画性(孔径)がはっきりしている市販の透析膜(分画分子量1000,2000,3500,10000,25000,50000のセルロース透析膜)を用いてDNAを固定化したDNA固定化膜を調製し、そのキャラクタリゼーションを行った。分割分子量1000のセルロース透析膜から調整したDNA固定化膜(DNA-1000膜)においては、D体が膜中を優先的に透過するために、供給液中には、L体が優先的に存在(残存)していた。一方、分画分子量10000から調整したDNA固定化膜(DNA-10000膜)では、L体が選択的に透過した。すなわち、ベース膜孔径の大きさに依存して、D体透過選択性か、L体透過選択性かが制御されていることが明らかとなった。ある程度孔径の大きな透過膜ではDNAは膜中の分子キャビティー中に入って固定化されることに起因すると考察した。従って、本分離はチャネル機構で行われていることが明らかとなった。また、様々な官能基を有するポリウレタン発泡体膜を用いた場合の血液からの血球分離についても検討した。 [2]光学活性な環境応答性高分子によるスマートメンブレンの新規合成と光学分割能を検討するために、新規キラル高分子Poly(N-(L)-(1-hydroxymethyl) propylmethacrylamide)(P(L-HMPMA))を合成した。その高分子鎖による構造形成が認められ、ゲスト分子に対するキャビティーを形成させることの可能性が期待された。 (2)新規スマートメンブレンの創成とその機能評価 [1]シークウエンシャル高分子薄膜の創成とその評価:Self-assembly法より、モノマー、オリゴマーを自在に積層し、これを重合することによって、膜厚方向に意図的に分子配列が制御されたシークウエンシャル高分子薄膜を得ることに成功した。 [2]燃料電池用高プロトン伝導性膜の創成とその評価:ブタンスルホン化ポリベンズイミダゾール(PBI-BS)膜のプロトン輸送のポイントとなる水のクラスター構造を小角X線散乱法により解析した結果、Nafion膜が明確な水クラスター構造を有するのに対して、PBI-BS膜では水分子が膜全体に分散して、明確な水のクラスター構造を持たないことがわかった。このことが両膜のプロトン伝導性における湿度依存性の違いの原因であることを明らかにした。このように今後の高プロトン伝導性膜の分子設計に役立つ知見が得られた。
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