研究概要 |
江澤は,非可換幾何学の観点から量子ホール系の量子場理論を構築し,各種の物理現象を研究してきた.本年は2層量子ホール系での層間量子位相が抵抗にどのような影響を与えるかを解析した.量子ホール効果はホール抵抗が量子化したゼロでない値をとるという性質で特徴づけられるが,特殊な場合には層間量子位相効果によりゼロになることを示した.これは最近の米国で行われた実験事実をよく説明する.成果は2つの国際会議(ウィーン,イスタンブール)で発表し,1編の原著論文として発表した.また,2層量子ホール系に於いて,非可換ソリトンと渦糸ソリトンの衝突による物理現象の解析を開始した.その衝突効果が縦抵抗の異常な振る舞いとして観測され得ることを示した.成果の国際会議発表と論文発表は準備中である.(5月の米国での国際会議で発表予定.)これらの理論的研究と平行して,江澤の属する実験グループで実施した2層量子ホール系実験の解析も行い,成果は4編の原著論文として公表している.以上5編の原著論文は項目11の研究発表に記載したものである. 綿村は,弦理論に現れる新しい非可換性の一つである非反可換超空間上の変形されたADHM構成法の研究の過程で現れた超空間上の変形された微分形式と,非可換場の理論におけるホップ代数の対称性の関係を研究した.4次元の非反可換超空間上の変形された微分形式は理論的には多種であるが,弦理論により与えられたADHM構成法の変形と整合性のあるものはほぼユニークである.このような微分形式の変形が実は捩れたホップ代数の対称性を要請することによりできる微分形式と等価であることを示した.結果は,ドイツの会議で発表した.一方,このことは捩れたホップ代数の対称性が弦理論においても作用している事を意味しておりその構造を研究した.その結果は現在論文にまとめている.
|